【コラム】遺留分減殺請求に関する制度改正
今回は、遺留分減殺請求の改正についてご紹介します。
【そもそも「遺留分減殺請求」とは?】
亡くなった人の直系尊属・配偶者・子には、相続の最低限度の取り分が保障されています。
この最低限度の取り分のことを「遺留分」と言います。
そしてこの遺留分は、亡くなった本人の遺言であっても侵害することができません。
これがもし侵害された場合、つまり、遺留分に満たない額しか相続できなかった場合には、
他の相続人や遺贈を受けた人に対して、遺留分にあたる部分の財産を請求することができます。
これが「遺留分減殺請求」と言われるものでした。
以上を踏まえた上で、今回の改正の内容を見ていきましょう。
【改正のポイント①】
遺留分減殺請求権から生じた権利を金銭債権化!
具体例で見ていきましょう。
例えば、Aさんという方が亡くなったとします。
・Aさんには、妻と子ども2人(長男と次男)がいます。
・1000万円の土地Xが遺産としてあります。
・Aさんは、「僕の遺産は、すべてBさんに遺贈する」という遺言を残しています。
この場合、先に説明した通り、妻と子には遺留分があります。
そのため、遺留分減殺請求がされると、遺言で指定された相続は以下のように変更されます。
妻と子(長男・次男)の遺留分は合わせて2分の1(改正民法1042条)。
法定相続分は、妻が2分の1、子は2分の1を人数で割った分になるので、
妻 1000万円の土地X × 1/2 × 1/2 = 土地Xの250万円分
長男 1000万円の土地X × 1/2 × 1/2 × 1/2 = 土地Xの125万円分
次男 1000万円の土地X × 1/2 × 1/2 × 1/2 = 土地Xの125万円分
そして、残った500万円分はBさんに残ります。
この場合、改正前は、土地Xを4人で共有することになりました。
なぜなら改正前の遺留分減殺請求は、財産の現物給付を求めるもの、とされていたからです。
不動産や株式が相続財産である場合に遺留分減殺請求権を行使すると、
複雑な共有状態が生じてしまっていたのです。
この問題を解決するために今回新設されたのが、民法1046条です!
1046条1項は、
「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」
と規定しています。
つまり遺留分権者は、遺留分侵害額にあたる部分を現物の給付ではなく、
金銭で請求することができるようになったのです。
これにより、複雑な共有状態が当然に発生してしまうことを回避できるようになりました。
先の具体例の場合、妻はBさんに対して250万円、子はそれぞれ125万円ずつ、金銭で請求できます。
4人で土地を共有する必要はなくなりました。
名称も、「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」に変わりました。
【改正ポイント②】
遺留分侵害額請求をされた場合に、金銭の支払いを待ってもらえる場合がある!
金銭を直ちには準備できない受遺者、または受贈者の利益を図るため、受遺者等の請求により、裁判所が、金銭債務の全部または一部の支払につき相当の期限を許与することができるようになりました(1047条5項)。
ただし、裁判所の裁量ですから、必ず待ってもらえるわけではないことに注意が必要です。