【コラム】特別受益と遺留分・・要件及び効果の違い
特別受益の主張も、遺留分侵害額請求も、被相続人から経済的な利益を得た相続人等に対して何らかの要求をする際に用いられるという点で共通しています。しかし、その仕組みはかなり異なります。
1、要件
特別受益は相続人が、「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」場合に主張できます(民法903条1項)。すなわち、あくまで相続人が贈与等を受けた場合についての規定であり、第三者が贈与等を受けたとしても原則、対象となりません(ただ、相続人の同居親族に対する贈与の場合に例外的に相続人に対する贈与と同等に扱うとされた例はあります)。ここで、特別受益については、上記の要件に当てはまれば時期は限定されていません。それゆえ、数十年前の学費が問題となることもあります。
一方、遺留分は相続人に限らず遺贈や贈与(遺産の承継や相続分の指定の遺言を含む)を受けた者に対して主張できます。ただし、贈与の場合はどこまで遡れるかについて期間の制限があります。すなわち、相続人以外に対する贈与の場合は相続発生前1年間の贈与のみが対象となり、相続人に対する贈与の場合のみ相続発生前の10年間の贈与が対象となります。ただし、贈与の際に双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は、期間にかかわらず算入します。
2、効果
特別受益の主張が認められると、その金額の分の遺産がまだあるとして各相続人の具体的相続分を計算します。例えば、被相続人には子A・子Bのみが相続人としていたとします。ここで、現に3000万円の遺産があるとして、相続人Bが1000万円の特別受益を受けているとすると、4000万円の遺産があるとして計算するわけです。なお、そうして計算したうえで、相続人Bの具体的相続分からすでにもらっている1000万円を引くことになります。そうすると、相続人Aは2000万円、相続人Bは1000万円を相続することになります。ただし、もし、相続人Bが先に3000万円をもらっていて、今1000万円しか残っていなかった場合、特別受益結果を計算すると、Bがこれから相続できる分は計算上マイナスになりますが、このように計算上マイナスになっても、Bはその分を返還する必要はありません。その場合はBがこれから相続できる分が0になるだけです。
一方、遺留分は、侵害された人から侵害した人に対して、金銭の支払の請求を行うことができます。例えば、上記の例で、もともと4000万円あって、そのうち3500万円をBが被相続人が亡くなる前10年間で受け取っていたため、500万円しか残っていなかったとします。この場合、Aは自己の遺留分1000万円のうち500万円を侵害されているので、Bに対して500万円の支払いを求めることができます。これが遺留分侵害額請求です。
3、主張する方法
特別受益は遺産分割の交渉や調停、審判の中で主張します。なお、令和5年4月に改正民法が施行された後は、特別受益の主張は、原則として相続開始(被相続人の死亡)から10年を過ぎるとできなくなります。(詳しくはご相談ください)
一方、遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害した者に対して直接主張する必要があり、かつ、被相続人の死亡及び自己の遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内に行う必要があります(なお、仮にそれらの事実を知らなくても被相続人の死亡から10年たつとやはり行えなくなります。ほとんどのケースでは1年の時効が早く来ると思われます)。
遺留分侵害額請求には、このように、かなり短い消滅時効がありますので、要注意です。
上記のように、特別受益と遺留分は要件も効果も異なりますが、いずれも各相続人の権利を守り公平な相続を実現するための制度という点では共通しています。相続に関して、ご自身の権利が侵害された、あるいは軽んじられていると感じたら、まずはご相談ください。