遺産分割の流れと注意すべきポイント
遺産分割の大まかな流れとしては、遺言書があるかの確認から始まります。もし、ここで遺言書がなければ相続人の確定をし、いよいよ遺産分割協議に入ります。
何よりも最初にすべきこと:遺言書の確認
まず、遺言書の確認ですが、なぜ必要なのでしょうか?
そもそも、亡くなった方の財産は相続により承継されるものです。被相続人が遺言書を残していれば、その内容に従うということが原則になります。そのため、まずその有無を確認することが重要です。公正証書であれば、公証役場に問い合わせれば有無がわかります。自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所に検認の申し立てが必要です。
ただし、遺言書があったとしても、その遺言書に記されていない相続財産がある場合は、遺産分割協議によって、誰が相続するかを確定させる必要があります。また、遺言書の内容が相続分の指定にとどまり、具体的な遺産の分割がされていない場合には、具体的にどの遺産をどの相続人が相続するかについて遺産分割協議が必要です。
また、遺言書はあったけれども、被相続人の認知能力が著しく低下している時期に書かれている、自筆証書遺言だが筆跡が不自然、など遺言の有効性が疑わしい場合は、相続人間で協議し、もし有効だと主張する相続人がいるが自身としては納得できないという場合には遺言無効確認訴訟を起こすということも考えられます。
遺言がなかった場合に行うこと:相続人の確定
遺言書がみつからない場合や、遺言に残されていなかった財産があった際は、(遺言書で誰が相続するか定められていない)相続財産のすべてについて、遺産分割協議で確定させる必要があります。ただし、この遺産分割協議は相続人全員が参加する必要があるのです。誰か一人でも欠けてしまっていると、どんなに時間を要した遺産分割協議であっても、すべて無効とされてしまうのです。もっとも、必ずしも一か所に集まって話し合う必要はなく、電話で協議したり、別々の場所で会ったりしてもよく、最終的に全員が同意すれば問題ありません。もちろん、弁護士に依頼して代わりに交渉してもらうということもできます。
相続人の範囲を確定させるためには、被相続人の生まれた時から亡くなるまでの戸籍調査を行う必要があります。それによって例えば存在を知られていなかった子が見つかる、というような場合もあるからです。
なお、これに絡んで、養子縁組が有効かどうかが争われる場合もあります。その場合は、養子縁組無効確認訴訟という訴訟が考えられます。(ただ、そのような訴訟が行われることは稀で、ほとんどのケースは戸籍を辿って判明した相続人間での協議となります)
遺産分割協議について
さて、上記のように相続人を確定させた後に遺産分割協議を行うことができます。不動産、預貯金、現金、自動車、無体財産権(著作権や特許権など)などさまざまな資産についてどのように分割するかという話し合いを行ないます。
ここでの話し合いが円滑に進んで全員で合意するに至れば、遺産分割で話し合われた内容を記す「遺産分割協議書」の作成を行い、相続財産を取得することになります。
なお、民法上は口頭でも遺産分割は成立しますが、ほとんどの場合、遺産分割協議書を作らざるを得ないと思います。なぜなら、被相続人に所有していた財産について、預金の解約や不動産の相続登記など、各種手続きにおいて必要になることが少なくないからです。また、後々のトラブルを避ける防止対策としても作成することが好ましいと考えます。
遺産分協議書作成の注意点
遺産分割協議の結果を記す書面として、残すことが好ましいと述べましたが、ただ、書面として残しておけばよいというわけでもありません。
相続人の全員が了承した内容であることを示すためにも作成時には全員の押印があるものを作成しましょう。
またその際の署名捺印が必要です。なお、捺印に関しては実印での押印が望ましいです。なぜなら、不動産の登記の際には実印での押印と印鑑証明書の用意が必要だからです。その他金融機関や証券の口座の変更などでも同じように実印で押印した遺産分割協議書と印鑑証明書を求められるのが一般的です。それゆえ、実印での押印とともに各相続人の印鑑証明書をそろえることも重要です。
なお、遺産分割の交渉についても、弁護士にご依頼いただくことができます。そのメリットしては、寄与分、特別受益、などご依頼者様に有利なことを法的な観点から主張することができるというのもありますが、同時に、弁護士に交渉を任せることでご依頼者様は直接相手方と交渉する必要がなくなり、時間的・精神的な負担が軽くなるということもあげられます。
遺産分割協議がまとまらなかった場合
遺産分割協議がまとまらなかった場合は、家庭裁判所に調停を申し立てるのが一般的です。調停では、調停委員を挟んで話し合いが行なわれます。一般には他の相続人とは同席しないで、各相続人が交互に調停室に入る形なので、ご安心ください。(相続人が3名以上いる場合に、概ね意見が一致する相続人らは事実上一つのグループとして同席するということはありますが、調停委員は意見を聴いてからそのようにするので、一方的にまとめて入るように求められるということは基本的にないはずです)
ただ、調停委員は中立的な立場であり、特定の相続人の味方をしてくれるわけではありません。それゆえ、専門的な知識がないと主張すべきことを主張できずに不利になる場合もあります。そこで、調停の場合においても、弁護士に代理人を依頼することをお勧めします。
調停がまとまれば、調書が作成され、遺産分割ができることになります。
調停がまとまらなければ、下記の通り審判に移行します。調停が不調に終わると自動的に審判に移行する点に注意が必要です。それゆえ、調停を申し立てる際には、審判になって裁判所の判断で強制力を持って遺産分割がされることになる可能性も踏まえて判断するべきだと思います。(ただ、調停の途中で取り下げることは可能です)
調停が合意に至らなかった場合
調停が合意に至らなかった場合は、審判に移行します。審判では法律的な観点から遺産分割をどのようにすべきか審理され、裁判所が決定します。
審判においては専門的な観点からの議論がなされるため、ぜひ弁護士にご相談、ご依頼いただければ、と思います。(ただ、調停の間に各相続人の主張が出尽くすのが一般的であり、また、調停の間にも何らかの中間的な合意がなされることもあるので、できるだけ、交渉の段階か、遅くても調停の初期にはご相談、ご依頼頂くほうが望ましいと思います)
なお、審判に対しても期間内に抗告をして高等裁判所での審理を求めることができます。抗告の期間は告知を受けてから2週間と短いので、注意が必要です。