弁護士による相続財産の調査
遺産の範囲の確定
遺産分割の手続きに入るためには、まず、どのような遺産があるかを、調査して、確定しなくてはいけません。なぜなら、遺産に漏れがあると、新たに見つかった遺産について再度遺産分割手続きを行わないといけなかったり、場合によっては、遺産分割協議全体が錯誤により無効となりかねないからです。また、納税の必要性の有無や必要な場合の納税額を算出するためにも、遺産の全貌を速やかに明らかにする必要があります。
特に遺産分割について揉めていない場合でも、相続人が遺産を残すところなく相続するためには財産を正確に把握することが必要です。その意味でも、相続財産についての調査は重要です。
この作業を、遺産の範囲の確定といいます。そのためには財産調査が必要ですが、その作業は、弁護士が代理で行うこともできます(一部ご本人様の協力を頂く部分があります)。
遺産の調査
上記のように、遺産分割協議においては、まず、遺産の範囲の確定ということが必要になるのですが、そのための調査は意外と手間がかかることもあります。すなわち、被相続人の死亡の時点におけるすべての財産が相続の対象となります。土地や建物などの不動産、銀行等の預貯金、株券、現金、人にお金を貸している場合の貸付金、など、さまざまなものが相続財産に含まれます。そうすると、それらをすべて調査しないといけないからです。
なお、当事務所では、遺産分割の交渉や調停をご依頼いただいた場合は、依頼者の方と密に連絡を取り合いながら調査を進めます。この調査は、基本的には弁護士がすべて行うというより、弁護士は何が必要かを把握して、書類によっては弁護士が直接取得し、銀行の履歴のようにご本人様に取得してもらった方が速いものはご本人様にお願いする、というように、弁護士が主導しつつ、ご依頼者様にも協力いただいて進めていく形になります。一方、財産調査も弁護士に任せたい、という場合はそれも含めて弁護士に依頼することができます。
財産調査の依頼は、交渉や調停とともに依頼することもできれば、特に揉めているわけではない場合に銀行口座・証券口座の解約や名義変更とともに依頼することもできます。
具体的な方法ですが、まず、土地については登記簿謄本や名寄帳を取る、などの調査方法が考えられます。名寄帳を利用することにより、被相続人の方が、所有したであろう土地が地名(市町村名など)しかわからない場合でも調査を行うことができます。複数の土地をご所有の方等で漏れがないようにするためにも、名寄帳による調査は重要といえるでしょう。
また、預貯金については、被相続人の残した通帳類を見るのが一般的ですが、最近は、通帳を発行しないネットバンキングも多いので、その場合は、ネットバンキングから送られてきた書類やカードなどがないか、やはり、遺品を整理して見つけることが近道だと思いす。その他、家族が聞いていた記憶などから、どこの金融機関に預貯金があるかが明らかになる場合もあります。何らかの手がかりを得たら、相続人が、金融機関に直接開示手続きをすることで、相続時点の正確な資産額を知ることができます。ただ、その作業も手間がかかるので、弁護士が代行することもできます。
その他、有価証券については利用していた証券会社に、保険については加入していた保険会社に、問い合わせることが必要になってきます。開示請求について弁護士が代理で行うことができるのは、金融機関の場合と同じです。
いずれにせよ、預貯金、有価証券、保険、などは、まずは、遺品の整理やご家族からの聞き取りが手がかりとなるケースが多く、地道な作業が必要です。最初にどの銀行や証券会社に口座があるのか、という手掛かりについてはご依頼者様からお聞かせいただけるほうが調査が速やかに進みますが、その後開示請求を行い残高証明書等を取得する作業は、弁護士が代理人として行うことができます。
こうして、遺産について一つ一つ把握していき、完了したら、遺産目録を作成します。
その後、被相続人名義の口座の解約・名義変更もお任せいただくことができます。
遺産の範囲についての争いがある場合
ここで、元々は被相続人の財産であったとしても、生前に他の人に贈与されていたものは遺産の範囲に含まれないことに注意する必要があります。例えば、祖父が子や孫に土地を贈与していた場合、その土地は相続財産ではありません(ただし、遺産分割協議においては特別受益の問題になりえます)。たしかに原則は登記を見ればわかるのですが、贈与などの法律行為が先に行われてまだ登記がされていないという状況(登記と実体の不一致)もありうるので、争われることもあります。
遺産の範囲に争いがある場合は、調停や審判の前に裁判で確定させる必要がある場合もあります。
債務の承継
なお、相続の対象となる財産には、不動産、現金、預貯金、株券などの積極財産だけではなく、借入金、住宅ローン、損害賠償義務などのマイナスの財産も含まれます。ただ、住宅ローンは多くの場合、被相続人が亡くなった時点で保険で支払われます(ただ、案件により異なりうるので、確認が必要です)。債務については、どちらかといえば、相続人ご本人様で調査頂くほうが良いと思いますが、弁護士が代理人として開示請求等を行うことも可能です。ただし、弁護士が代理人として介入すると返済方法の協議についてもそのまま行うことが一般的です。
事業者の場合
多くの場合、問題になるのは、土地や家屋などの不動産、預貯金、現金、株式などの有価証券、等だと考えられますが、事業を行なっていた方の場合等には、さまざまな財産(自社株式、売掛金請求権、著作権等の無体財産権、など)を持っている場合も珍しくないので、資産の調査は特に丁寧に行なう必要があります。
また、法人化している場合、株式会社であれば、その持ち株が遺産となります。その場合は、相続の対象としては株式になるのですが、その価値を調べるためには結局、会社の経営状況、資産の状態などを調査する必要が出てきます。持ち株になっている場合、その株式の評価が分割のためにも、また、納税の関係でも重要になってくると言えます。株式未公開の会社の持ち株の価値については税理士等とも協力して算出していくほうが良いでしょう。
早めに解決するメリット
また、このように、様々な種類の財産があるため、場合によっては手間がかかります。遺産分割までは不動産の利用や売却、株式の売買、なども事実上制約があり、長引くことで経済的な不利益が生じることもあります。また、仮に揉めていない場合でも、預貯金を早く使いたい、証券を引き継いで運用したい、という場合には、名義の書き換えを行う必要があります。
そういう意味でも、早期の手続きが望ましく、また、複数人の相続人がいる場合も遺産分割後の利用についても早めに計画を立てておくことも重要だと思います。例えば、土地などをとりあえず承継しても、その後、どのように利用するかを考えておかないと、かえって管理や固定資産税などの関係で負担になりかねません。
専門家である弁護士に相談
弁護士は相続など法律問題の専門家です。特に相続案件を多く扱っている弁護士は遺産の調査にも慣れています。ご自身で行えば手間がかかる銀行口座や証券口座の解約・名義変更、等も弁護士に行えばご自身ではほとんど手間をかけずに行うことができます。相続財産の調査や解約・名義変更について悩んでおられる方は、まずは弁護士までご相談ください。
費用については、交渉や調停等をご依頼の場合と比べて、相続人の範囲の調査・相続財産の調査及び銀行口座等の解約・名義変更のみであれば、比較的低い弁護士費用で可能ですので、まずはお問い合わせいただければ、と思います。