特別受益とは


 あらかじめ土地などの財産をもらっていたり、金銭の贈与を受けていた人が他の相続人と同じようにもらえるとしたら、不公平だという考え方が一般的だと思います。これを、民法は、特別受益という形で定めました。

すなわち、民法903条は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」と定めています。

簡単に言うと、あらかじめ贈与を受けていたり、遺贈を受けていると、その分は本来は遺産であったものであり先にもらったものとして計算するということです。もっとも、親子の場合等にはもともと扶養義務があり、その範囲内だと特別受益にはなりません。その判断は金額の他、援助を必要とした事情や他の相続人との扱いの差異などを総合的に判断することになります。生活費の他に、学費などもよく問題になります。これも特別受益に該当するかはケースによります。

相続人の家族に対する贈与は?

 よく、相続人本人ではなく、その家族に贈与がされていた場合に、それも特別受益として考えるべきだとの主張がされることがあります。特別受益は条文上、相続人が贈与等を受けた場合に特別受益が成立します。それゆえ、相続人の家族への贈与等では特別受益にはならないはずです。しかし、実質的にみて相続人が贈与を受けたのと同視できる場合には特別受益とされる可能性はあります。

 福島家白河支 昭和54年(家)52号 昭和55年5月24日審判は家族への贈与を相続人への贈与と同視して特別受益を認めた事例です。このケースは相続人が農家の奥さんであり、被相続人から旦那さんに対して農地が贈与されていた事例です。ここで家庭裁判所は、「贈与された土地のうち大部分を占める農地についてみると、これを利用するのは農業に従事している〇〇であること、また、右贈与は被相続人の農業を手伝つてくれたことに対する謝礼の趣旨も含まれていると認められるが、農業を手伝つたのは〇〇であることなどの事情からすると、被相続人が贈与した趣旨は〇〇に利益を与えることに主眼があつたと判断される。」としており(〇〇の部分は原文は相続人である女性の名前)、その上で、「本件贈与は直接〇〇になされたのと実質的には異ならない」(同)として、公平の観点から特別受益を認めています。

 このケースは、贈与対象が土地であること、農家であり贈与対象の土地は相続人が耕作していたこと、相続人に利益を与える趣旨であったこと、旦那さん名義にしたのは夫を立てるという意図があったこと、などが認定されており、それらの事情を考慮して、例外的に、相続人以外への贈与でも特別受益を認めたものです。したがって、家族への贈与が必ず特別受益になるわけではなく、相続人に対する贈与と同視できる場合には特別受益になりうるという理解をすべきだと考えられます。

持ち戻し免除とは?

 特別受益がある場合は、その分を先にもらったとして計算しますが、持ち戻し免除の意思表示がされていた場合はその必要がありません。すなわち、民法903条3項に「被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。」と定められているのです。つまりは、被相続人(遺産を残して亡くなった人)の意思表示が問題とされているのです。被相続人が「この分は戻さなくていいよ」という意思表示をしていた場合、戻さなくてよく、その意思表示は遺言でもできますが、生前の書面や口頭でも可能です。そして、持ち戻し免除は黙示でも認められる点に注意が必要です。

*ただ、持ち戻し免除をしたい場合は、遺言やその他書面を残しておく方が証拠が残るので良いでしょう。

 

持ち戻し免除の推定

 民法904条4項は、「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」と定めます。

 つまり、20年以上結婚していた夫婦の片方が亡くなった場合に、居住用の不動産をもう一方に遺贈や贈与していた場合には、持ち戻し免除の意思表示がされていたと推定されるということです。推定なのでそれに反する事実を立証することで覆すことは可能です。この規定は今回の民法改正で新たに加えられたものであり、相続において婚姻期間の長い配偶者の生活に配慮して設けられた規定であると考えられます。

特別受益はいつまで主張できる?

 令和5年4月に改正民法が施行された後は、特別受益の主張は、原則として相続開始(被相続人の死亡)から10年を過ぎるとできなくなります。詳細は、弁護士にご相談ください。

 

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