残業代の時効についてありがちな誤解と正しい知識

残業代(時間外労働手当)の時効

 いわゆる残業代(時間外労働手当)については、消滅時効が短いので、注意が必要です。すなわち、一般的な民法上の消滅時効と異なり、時効は、改正前で2年、改正後で3年、となっています。(改正は2020年4月)

 これは、残業代に限らず、賃金については、そのような短期の消滅時効にかかります。労基法115条には「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、」行使しないと時効により消滅する旨が定められているのですが、143条3項で「「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする」と定められており、結局のところ、当分の間、残業代などの賃金請求権の時効は3年なのです(退職金は5年)。また、上記の通り、改正前に既に発生していたものは2年のままです。

 

退職後2年(3年)以内に請求すればよいという誤解

 残業代請求の時効が2年(改正法では3年)と聞くと、退職後2年(3年)以内に請求すればよいと考える方もおられるようです。しかし、これは、大きな問題があります。なぜなら、時効は、各月の給与支払い日から進行するからです。したがって、退職してから2年(3年)近くが経過してから請求しようとしても、退職直前の支給日の分を除いて時効ということにもなりかねません。

 例えば、残業代未払いが3年程度は続いている企業を2020年9月30日に退職したとします。給料日は毎月25日(月末締翌月払い)だとします。2020年10月1日に残業代請求をすれば、2018年9月25日にもらえるはずだった分はもはや時効ですが(2年を経過しているので)、2018年10月25日にもらえるはずだった分は、この時点ではまだ2年経っていないので時効ではありません。しかし、その分も、2020年10月25日を過ぎると2年が経過しているので時効になってしまいます。こうして、退職2年後の2022年9月30日の時点では、2020年10月25日に支給されるはずだった分を除いて、すべて本来の支給日から2年以上が経過して、時効になってしまっているわけです。*それまでに時効の更新(中断)をしていない限り。 それゆえ、残業代請求は、退職から2年近く待つのではなく、(退職後に請求するのであれば)退職後すぐに行うべきです。

 なお、退職直後に請求してもさかのぼれるのは旧法で2年、改正法でも3年です。何十年も務めていてその間ずっと未払いが続いているようなケースには、大部分が時効になってしまうことになります。そう考えると、本来は、在職中でも最初の未払い分が時効になる前に、速やかに請求することが望ましいのです。ただ、実際のところ、勤めながら請求するのは勤め先との関係を考えて躊躇してしまうケースが多いようです。

 いずれにせよ、各回の給与支払い日から時効は数えるので、請求したいと思ったら速やかに行動することが大事です。

 

今後の法改正の可能性

 現在、残業代など賃金の請求権については、労働基準法115条で5年と定めたうえで143条3項で当分の間3年と定めているという構造になっています。これは、民法の主観的事項が5年とされたこととの関係だと考えられます。すなわち、一般法である民法で5年と定めているのに労働者保護のための法律である労働基準法でそれより短い期間が定められているのは矛盾があります。それを解消するために、いずれ、5年とされる可能性が高いと考えられます。

 

残業代の時効を更新(中断)するには?

 残業代請求権の時効を止める(改正法では更新、改正前の法律でいう中断)するには、訴訟の提起などの方法があります。また、内容証明郵便などによる催告でも時効の完成が6ヶ月伸びます。したがって、まずは弁護士から内容証明郵便を送り、6ヶ月以内に提訴する、という方法もよくとられます。

 

残業代支払い請求は弁護士へ

 残業代などの賃金未払いの問題については、ぜひ、弁護士にご相談ください。残業代請求は、単価計算、割増率、など、複雑な問題があります。よほどしっかりした知識がある方ならともかく、多くの場合、自分で請求書や訴状を作ることは難しいと思います。法律の専門家である弁護士に相談して、しっかりとした内容の請求を行いましょう。

 

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