【コラム】配偶者居住権の新設

配偶者居住権の新設

 

  1. 配偶者居住権とは?

平成30年の民法改正において、「配偶者居住権」という権利が新設されました。

「配偶者居住権」とは、被相続人(亡くなった人)の配偶者は、相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合、その建物を終身または一定期間、無償で使用・収益することができる、という権利です。(改正民法1028条)

簡単に言うと、「亡くなった人の家が、遺産分割によって配偶者以外の人の物になっても、配偶者はその家に住み続けられるよ」ということです。しかし、これは「相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合」に限られるので、別居していた夫婦には認められません。

また、「配偶者短期居住権」とは、上と同様の場合、被相続人の配偶者はその居住建物を、相続の分割が確定するまでの間、無償で使用することができる、という権利です。(改正民法1037条)

こちらは簡単に言うと、「亡くなった人の配偶者は、遺産分割協議が終わるまでの間は、今まで夫婦で住んでいた家にそのまま住んでいていいよ」ということです。

 

  1. 配偶者居住権が新設された理由

配偶者の一方が亡くなった場合、残された配偶者は、今まで居住していた建物に今後も居住することを希望する場合が多いでしょう。

しかし、改正前の民法下では、配偶者以外の人がその建物を相続した場合、配偶者は立ち退きを要求される可能性がありました。また、建物を相続してしまうとそれだけで相続分の割合を満たしてしまい、生活費にあたる財産を相続できなくなってしまう、という問題もありました。

こうした問題は、高齢化社会の進展とともに増加していくことが予測されます。

そこで今回の改正では、残された配偶者の生活を保障するための制度として、「配偶者居住権」が新設されたのです。

 

  1. 配偶者居住権の成立要件

被相続人の配偶者が、配偶者居住権を取得できるのは以下の場合です。(1028条)

  • 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
  • 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき

ただし、被相続人が、相続開始時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合は除かれます。

 

審判により遺産分割を行うときは、以下の場合に配偶者居住権が認められます。(1029条)

  • 共同相続人間で配偶者居住権の合意があるとき
  • ①以外の場合で、配偶者が居住権の取得を希望しており、その居住建物の所有者が受ける不利益を考慮してもなお、配偶者の生活維持のために必要であると認められるとき

 

 以上の場合に、配偶者居住権が認められます。

 

  1. 配偶者居住権の効力・内容
  • 登記が必要

居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対して、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務があります(1031条1項)。

配偶者が、居住建物の所有者や、その他の第三者に対して「自分は配偶者だから、この家に住む権利があるんだぞ!」と主張するためには、登記をしなければならないのです。配偶者居住権の対抗要件には、民法605条(賃借権の対抗要件)が準用されます(1031条2項前段)。

また、登記をすることで、民法605条の4も準用されるので、妨害の停止請求権と妨害排除請求権も認められます。

 

  • 使用・収益について

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用収益をしなければなりません(1032条1項)。

また、配偶者居住権は、配偶者のみに認められた特別な権利なので、他の人に譲渡・売却することはできません(1032条2項)。

 そして配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築・増築をすること、また第三者に居住建物を使用収益させることはできません(1032条3項)。

 

  • 配偶者居住権の消滅

 配偶者が、上記の用法遵守義務、善管注意義務に違反した場合には、居住建物の所有者は、配偶者に対する意思表示により配偶者居住権を消滅させることができます(1032条4項)。そして、配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物を返還しなければなりません。

 また、配偶者居住権の期間が満了した場合は、配偶者居住権は終了し、配偶者が死亡した場合には、配偶者居住権は消滅します(1036条)。

 

  1. おわりに

今回の民法改正の中でもとりわけ、配偶者居住権の新設は、実務に大きな影響を与えることが予想されますよね……。配偶者居住権に伴って新設された「持戻し免除の意思表示の推定規定」については、また別記事でご紹介します!

 

 

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